新リース会計基準 実務解説シリーズ 第2回

はじめに:最初のステップ「リースの識別」

契約の締結に先立って「そもそもこの契約はリースにあたるのか?」という「リースの識別」が必要です。

このステップでリースの把握を漏らすとオンバランスすべき資産及び負債の計上漏れにつながります。

したがって、「リースの識別」は極めて重要です。

契約書に「リース契約書」と書かれているかどうかではなく、契約(書面の有無は無関係)に基準が定義する「リース」が含まれているかどうかが重要です。

リースの識別

契約当事者は、契約がリースを含むか否かを、次の2点を考慮して判断する必要があります。

① 契約において特定された資産があるか?
② 借手がその資産の使用を支配しているか?

この2つをいずれも満たす契約はリースに該当し、原則として使用権資産およびリース負債の認識が求められます。(「原則として」→リースのうち少額リース及び短期リースについてオンバランスしない可能性があります。第4回で解説します。)

① 特定された資産があるか

📌 判断における実務的な感覚としては、
「このロケーション(ここ!)」「この設備(これ!)」と具体的に指をさすことができる資産かどうかです。

たとえば、倉庫内の100㎡を借りているものの、使用場所をサプライヤーが都度自由に決められるような契約は、「特定された資産」とは見なされない可能性があります。

一方で、契約書に添付された見取図などにより使用場所が特定されており、かつサプライヤーが一方的に変更できない契約であれば、「特定された資産」に該当する可能性が高まります。

② 使用を支配しているか

📌 判断における実務的な感覚としては、
その資産を使って得られる利益は自分のものであり、かつその使い方も自分で決められるかどうかです。

→ 所有権のない他人の資産をあたかも自己の所有物のように使える状況です。所有権のある資産はもともとオンバランスされますので検討する必要はありません。

ここでのポイントは、「誰がどう使うかを決めるか」「使って得られるメリットが誰のものか」という2点にあります。

フローチャートと設例の活用

この2つの判断を誤ると、後続の会計処理に大きな影響を与え、資産・負債の計上漏れまたは過大計上につながるおそれがあります。
判断に迷う場合は、会計基準の設例に付されたフローチャートと、関連する適用指針の記載を踏まえ、監査法人との事前合意を取ることが望まれます。

出典:企業会計基準委員会
「リースに関する会計基準の適用指針の設例」【設例1】リースの識別に関するフローチャート

経理部門と現場部門における具体的な手順

(1) 経理部門でのリースの識別

  • 勘定科目単位(販管費中心)で定期的な支払いがある取引を抽出
  • 契約書をレビューしてリースの有無を判断
  • 現在リース処理している契約も再確認(補助的ではあるが有用)

(2) 現場部門主導でのリースの識別(いわゆる「隠れリース」(※))

  • 経理部門で実務感覚に即した質問書を作成(会計基準の文言そのままでは読まれないことがある)
  • 製造原価に計上される契約も対象に含める

※ 隠れリースについて、別稿でまとめる予定です。

契約書のタイトルに「リース」の文字がなく、「業務委託契約」「販売委託契約」「物品貸与契約」などの名称であっても、特定された資産の使用を借手が支配していれば、それはリースです。

契約の名称ではなく、その内容実質が重要です。

現行のリース取引会計基準との違い

現行基準では、実質的に解約不能なリース契約について、現在価値基準および経済的耐用年数基準など、形式的な数値条件に基づいて資産計上の対象を決定しています。

新基準では、まず契約がリースに該当するかどうかを、数値基準を含まない実質判断のフローに従って評価し、該当するものは原則オンバランス処理されます。

まとめ

新リース会計の第一歩は、「この契約にリースが含まれるか?」という識別判断です。
そのためには、資産が明確に特定されており、かつ使用から得られる経済的利益が借手に帰属するかどうかという契約の実態を丁寧に見極める必要があります。

📌 次回予告:「リース期間」の見極め方

次回は、「リース期間はどこまで含めるべきか?」というテーマを扱います。
延長・解約のオプション、合理的に確実の考え方など、判断が分かれやすいポイントを整理して解説します。

この記事は、公認会計士・石谷敦生が執筆しています。
内容はすべて筆者個人の見解に基づくものであり、いかなる団体や第三者の意見を代表するものではありません。

新リース会計基準 実務解説シリーズ 第1回

はじめに:なぜ、いま「リース会計基準」なのか?

こんにちは。このブログでは、2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用される新しいリース会計基準(企業会計基準第38号およびその適用指針)のうち、借手の会計処理に焦点を当てて解説(全10回の予定)していきます。
第1回は導入編として、「なぜ今、リース会計基準を学び、準備する必要があるのか?」という疑問に、実務の視点からお答えします。

リース会計が変わる。その背景は?

これまでの日本の会計基準では、典型的なリース契約を以下のように区分して処理してきました:

  • ファイナンス・リース:資産及び負債計上(オンバランス処理)
  • オペレーティング・リース:費用処理(オフバランス処理)

この2区分モデルは長く実務に定着してきましたが、国際的な会計基準(IFRS第16号、米国基準)ではすでに、リースは原則すべてオンバランス処理とされています。
一方で、現行の日本基準はオペレーティング・リースをオフバランスとしており、国際的な比較可能性 に課題がありました。
そこで導入されたのが、今回の新しいリース会計基準です。

リースを利用する者は、資産を使用する権利を得て、それに対する支払い義務を負う以上、その実態は貸借対照表にきちんと反映されるべきだという考え方が根底にあります。

どの企業が対象?

監査を受ける企業に強制適用されます。

注意点は、新基準が対象とするのは「典型的なリース契約」だけではないということ。契約書に「リース」と書かれていなくても、 実質的にリースとみなされる契約 があれば対象となります。さらに、契約書がなくても取引の実態がリースであれば対象となりえます。

「当社にはリース契約がないから関係ない」と即断するのではなく、「リースに該当する契約や取引があるかもしれない」と一度立ち止まって見直してみましょう。

何が変わるのか?実務への影響は?

最大の変更点は、オフバランスだったオペレーティング・リースが、資産および負債として計上されるようになることです。

この変更により、次の影響が想定されます:

  • 総資産・総負債が増加
  • 自己資本比率が低下する可能性
  • リース費用が利息+減価償却費に分かれて計上される
  • EBITDA(利息・税金・償却前利益)が形式的に増加

これらの変化は、経理処理にとどまらず、財務分析や経営判断、金融機関との対話にも波及するインパクトを持ちます。
一方で、“隠れた負債が見える化される”という点で、財務の透明性が高まることにもつながります。

適用時期について

新基準の適用開始は、2027年4月1日以後に開始する事業年度。多くの企業では、2028年3月期の第1四半期決算から影響を受けることになります。

実務的には早期準備が必要です。具体的な準備として:

  • 現在契約中の賃貸借契約・リース取引の棚卸し
  • オペレーティング・リースの有無と金額の把握
     →これらが新基準でも「リース」に該当するかどうかの検討
  • 実質的にリースに該当する契約及び取引(いわゆる隠れリース)の確認
     →経理部門だけでなく、実際に契約を管理している現場部門にも確認・照会を行う必要があります。
  • 会社の見解を監査法人と見解のすり合わせおよび合意形成
まとめと次回予告

2027年度から始まる新リース会計基準は、「借手が使用するすべてのリースを資産および負債として計上する」ことを原則とする大きな制度変更です。

財務指標への影響も決して小さくないため、経理部門が主導して社内の理解と準備を着実に進めることがカギとなります。
このシリーズでは、実務にすぐ役立つ視点で、1つずつポイントを解説していきます。

📌 次回予告:「リースの識別」

第2回のテーマは、「リースの識別」。何がリースに該当するのか?どんな契約が対象になるのか?
実務でつまずきやすいこのテーマについて、判断ステップごとに整理してご紹介します。

→第2回はこちら

以下の10回シリーズを予定しています。

第1回:はじめに:なぜ、いま「リース会計基準」なのか?
👉 新基準導入の背景と、経理実務に与える影響の全体像を解説。

第2回:最初のステップ「リースの識別」
👉 2つのステップ、経理部門の対処すべき点など

第3回:いつまでが「リース期間」?
👉 解約不能期間、延長オプションの評価、継続の意思確認など。

第4回:例外の取扱い:「短期リース」と「少額リース」
👉 実務で使える例外規定の適用条件と注意点を整理。

第5回:最初の仕訳が重要!「リース開始日の会計処理」
👉 使用権資産・リース負債の初回認識、割引率の選定と直接コストの扱い。

第6回:日々の処理はこうする!「リース期間中の会計処理」
👉 減価償却・利息費用、再測定や契約変更への対応も含めて実務目線で整理。

第7回:貸手の会計①:オペレーティング・リース編
👉 借手との違いを理解しながら、現行モデルからの変化を把握。

第8回:貸手の会計②:ファイナンス・リース編
👉 貸手による売却・利息配分、純投資・未経過利息の考え方など。

第9回:初年度がカギ!「適用初年度の実務と経過措置」
👉 遡及適用・簡便措置・契約棚卸など、導入期に求められる対応を詳しく。

第10回(仮):社内展開はどうする?「実務対応フローとチームづくり」
👉 社内体制の構築、現場との連携、監査法人とのすり合わせを含む推進プラン。
※または、実務FAQ集や「やってはいけない落とし穴10選」などに差し替えも可能です。

この記事は、公認会計士・石谷敦生が執筆しています。
内容はすべて筆者個人の見解に基づくものであり、いかなる団体や第三者の意見を代表するものではありません。

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