新リース会計基準 実務解説シリーズ 第1回

はじめに:なぜ、いま「リース会計基準」なのか?

こんにちは。このブログでは、2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用される新しいリース会計基準(企業会計基準第38号およびその適用指針)のうち、借手の会計処理に焦点を当てて解説(全10回の予定)していきます。
第1回は導入編として、「なぜ今、リース会計基準を学び、準備する必要があるのか?」という疑問に、実務の視点からお答えします。

リース会計が変わる。その背景は?

これまでの日本の会計基準では、典型的なリース契約を以下のように区分して処理してきました:

・ファイナンス・リース:資産及び負債計上(オンバランス処理)
・オペレーティング・リース:費用処理(オフバランス処理)

この2区分モデルは長く実務に定着してきましたが、国際的な会計基準(IFRS第16号、米国基準)ではすでに、リースは原則すべてオンバランス処理とされています。
一方で、現行の日本基準はオペレーティング・リースをオフバランスとしており、国際的な比較可能性 に課題がありました。
そこで導入されたのが、今回の新しいリース会計基準です。

リースを利用する者は、資産を使用する権利を得て、それに対する支払い義務を負う以上、その実態は貸借対照表にきちんと反映されるべきだという考え方が根底にあります。
どの企業が対象?

監査を受ける企業に強制適用されます。

注意点は、新基準が対象とするのは「典型的なリース契約」だけではないということ。契約書に「リース」と書かれていなくても、 実質的にリースとみなされる契約 があれば対象となります。さらに、契約書がなくても取引の実態がリースであれば対象となりえます。

「当社にはリース契約がないから関係ない」と即断するのではなく、「リースに該当する契約や取引があるかもしれない」と一度立ち止まって見直してみましょう。

何が変わるのか?実務への影響は?

最大の変更点は、オフバランスだったオペレーティング・リースが、資産および負債として計上されるようになることです。

この変更により、次の影響が想定されます:

・総資産・総負債が増加
・自己資本比率が低下する可能性
・リース費用が利息+減価償却費に分かれて計上される
・EBITDA(利息・税金・償却前利益)が形式的に増加

これらの変化は、経理処理にとどまらず、財務分析や経営判断、金融機関との対話にも波及するインパクトを持ちます。
一方で、“隠れた負債が見える化される”という点で、財務の透明性が高まることにもつながります。

適用時期について

新基準の適用開始は、2027年4月1日以後に開始する事業年度。多くの企業では、2028年3月期の第1四半期決算から影響を受けることになります。

実務的には早期準備が必要です。具体的な準備として:

・現在契約中の賃貸借契約・リース取引の棚卸し
・オペレーティング・リースの有無と金額の把握
 →これらが新基準でも「リース」に該当するかどうかの検討
・実質的にリースに該当する契約及び取引(いわゆる隠れリース)の確認
 →経理部門だけでなく、実際に契約を管理している現場部門にも確認・照会を行う必要があります。
・会社の見解を監査法人と見解のすり合わせおよび合意形成

まとめと次回予告

2027年度から始まる新リース会計基準は、「借手が使用するすべてのリースを資産および負債として計上する」ことを原則とする大きな制度変更です。

財務指標への影響も決して小さくないため、経理部門が主導して社内の理解と準備を着実に進めることがカギとなります。
このシリーズでは、実務にすぐ役立つ視点で、1つずつポイントを解説していきます。

📌 次回予告:「これはリース?」の判断が出発点です。

次回のテーマは、「リースの識別」。何がリースに該当するのか?どんな契約が対象になるのか?
実務でつまずきやすいこのテーマについて、判断ステップごとに整理してご紹介します。

以下の10回シリーズを予定しています。

第1回:はじめに:なぜ、いま「リース会計基準」なのか?
👉 新基準導入の背景と、経理実務に与える影響の全体像を解説。

第2回:これはリース?「リースの識別」が出発点!
👉 使用権モデル、指定資産・支配の判断。契約のどこを見て判断する?

第3回:どこまでがリース?「リース期間」の見極め方
👉 解約不能期間、延長オプションの評価、継続の意思確認など。

第4回:例外の取り扱い:「短期リース」と「少額リース」
👉 実務で使える例外規定の適用条件と注意点を整理。

第5回:最初の仕訳が重要!「リース開始日の会計処理」
👉 使用権資産・リース負債の初回認識、割引率の選定と直接コストの扱い。

第6回:日々の処理はこうする!「リース期間中の会計処理」
👉 減価償却・利息費用、再測定や契約変更への対応も含めて実務目線で整理。

第7回:貸手の会計①:オペレーティング・リース編
👉 借手との違いを理解しながら、現行モデルからの変化を把握。

第8回:貸手の会計②:ファイナンス・リース編
👉 貸手による売却・利息配分、純投資・未経過利息の考え方など。

第9回:初年度がカギ!「適用初年度の実務と経過措置」
👉 遡及適用・簡便措置・契約棚卸など、導入期に求められる対応を詳しく。

第10回(仮):社内展開はどうする?「実務対応フローとチームづくり」
👉 社内体制の構築、現場との連携、監査法人とのすり合わせを含む推進プラン。
※または、実務FAQ集や「やってはいけない落とし穴10選」などに差し替えも可能です。

この記事は、公認会計士・石谷敦生が執筆しています。
内容はすべて筆者個人の見解に基づくものであり、いかなる団体や第三者の意見を代表するものではありません。

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