📘新リース会計基準 実務解説シリーズ 第4回

最初の仕訳が重要!「リース開始日の会計処理」

こんにちは。シリーズ第4回では、リース開始日の借手の仕訳を解説します。

リース開始日:使用権資産とリース負債を認識するタイミング

リース開始日(通常はリース期間の初日)とは、借手が使用権資産の使用を開始する日です。

リース負債はどうやって計算する?

借手のリース負債は、リース料を現在価値へ割り引くことで算定します。リース料は、借手が貸手の原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、(1)から(5)の要素により構成されます。
(1)固定リース料
(2)指数・レート等により変動するリース料
(3)残価保証の支払見込額
(4)購入オプションの行使価額(行使が合理的に確実な場合)
(5)違約金(解約オプションがある場合)

🔍【参考】:以下はリース料の構成要素ごとの補足解説です。要点のみ確認されたい方は、このセクションを読み飛ばしても差し支えありません。

(2)指数・レート等により変動するリース料
物価連動型のオフィス賃料などが考えられます。こちらの日本経済新聞の記事(2025年7月6日)のようなケースの契約は注意が必要です。
記事から引用したワード
・オフィス賃料を物価連動させる契約
・インフレ定着を見据えて賃料を物価連動させる仕組みの導入

一方で、売上の〇%を歩合家賃として支払うケースは変動リース料ではあるものの、リース負債算定におけるリース料には含めないこととされています。こちらについては、借手の将来の活動によってはリース料を支払う義務を回避することができることから、リース開始日においては負債の定義を満たさないという考え方があるためとされています(リース会計基準BC42項を解釈)
(3)残価保証に係る支払見込額
 旧基準では残価保証額をリース料に含めますが、新基準では支払見込額を見積もってリース料に含めることを求めています。見積額が変わる場合はリース料の見直しが求められます。
(4)及び(5)→第3回リース期間の記事をご参考になさってください。

割引率の決定

原則は貸手の「計算利子率」。
ただし借手が計算利子率を知り得ない場合は、自社の「追加借入利子率(同条件で借りたときの想定利率)」を使います。

使用権資産の金額はどう決まる?

借手は、リース負債に加減して使用権資産の金額を算定します。調整項目には以下があります。
 +前払リース料
 +初期直接コスト
 +原状回復費用の現在価値
 ▲リース・インセンティブ(例:補助金の還元)

そのため、使用権資産とリース負債の金額が一致しないこともあります。

リース開始日における仕訳例

それでは、以下の例に従ってリース開始日の仕訳を作ってみましょう。

  • リース期間:3年(36か月)
  • 支払方法:毎月月初払い(元利均等払い)
  • 月額リース料:146,084円(最終月のみ調整:146,095円)
  • 借手の追加借入利子率:年利3.5%(借手は貸手の計算利子率を知りえないとします)
    →リース負債の現在価値は5,000,000円になります。
  • 付随費用:200,000円
  • 資産除去債務の現在価値:150,000円
  • リース・インセンティブ(貸手が付随費用の一部を負担し現金で借手に還元):▲50,000円

【仕訳例】

(借) 使用権資産 5,000,000 (貸) リース負債 5,000,000
(借) 使用権資産 200,000 (貸) 前払費用 200,000
(借) 使用権資産 150,000 (貸) 資産除去債務 150,000
(借) 現 金 50,000 (貸) 使用権資産 50,000

【図解】

📌 使用権資産とリース負債の構成を例に従って図解。(2024年11月のASBJセミナー構成を参考に著者作成)

なお、この計算例は原則的な利息法(適用指針第19項)によるものです。使用権資産総額に重要性が乏しい場合の取扱い(適用指針第40-42項)が、旧基準におけるリース資産総額に重要性が乏しい場合の取扱い(旧基準適用指針第31-33項)を踏襲する形で認められています。

🔍【参考】📄 リース負債の返済予定表(月初払い・年利3.5%・36回)

↓ ▶をクリックすると全体が開きます

📄 返済予定表(36回)を見る (円単位)

🧾まとめ

本記事では、リース開始日における借手側の会計処理について、リース負債と使用権資産の初回認識を中心に整理しました。
リース料の構成要素を正しく把握し、適切な割引率を選定することが、正確な資産・負債の認識につながります。

📅 次回予告:第5回 日々の処理はこうする!「リース期間中の会計処理」
👉 投稿予定:2025年7月20日

次回は、リース期間中の処理を取り上げます。
使用権資産の減価償却とリース負債に係る利息費用の計上、さらには契約変更や再測定といった論点について、実務に即して解説します。

📘新リース会計基準 実務解説シリーズ 第1回

2027年4月適用開始 新リース会計基準の実務インパクトとは?

こんにちは。このブログでは、2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用される新しいリース会計基準(企業会計基準第34号および企業会計基準適用指針第33 号)のうち、借手の会計処理に焦点を当てて解説(全10回の予定)していきます。
第1回は導入編として、「なぜ今、新リース会計基準を学び、準備する必要があるのか?」という疑問に、実務の視点からお答えします。

リース会計が変わる。その背景は?

これまでの日本の会計基準では、典型的なリース契約を以下のように区分して処理してきました:

📌ファイナンス・リース:資産及び負債計上(オンバランス処理)
📌オペレーティング・リース:費用処理(オフバランス処理)

この2区分モデルは長く実務に定着してきましたが、国際的な会計基準(IFRS第16号、米国基準)ではすでに、リースは原則すべてオンバランス処理とされています。
一方で、現行の日本基準はオペレーティング・リースをオフバランスとしており、国際的な比較可能性 に課題がありました。
そこで導入されたのが、今回の新リース会計基準です。

💡リースを利用する者は、資産を使用する権利を得て、それに対する支払い義務を負う以上、その実態は貸借対照表にきちんと反映されるべきだという考え方が根底にあります。

新リース会計基準の適用対象企業

新リース会計基準は、上場会社や、金融商品取引法の適用を受ける会社がまずは適用対象となります。
また、連結財務諸表に含まれる子会社や関連会社も、原則として適用対象に含まれます。

これに加えて、会社法の定めに従って会計監査人を設置している会社についても、「一般に公正妥当と認められる会計基準」に従って財務諸表を作成する必要があるため、新リース会計基準に基づく会計処理が求められます。さらに、連結財務諸表の監査を委嘱する場合は、子会社および関連会社についても適用対象とすることが想定されます。

一方で、これらに該当しない中小企業等の公認会計士または監査法人の監査を受けない会社(任意監査を委嘱している場合はこの限りではありません)においては、📖「中小企業の会計に関する指針」第4項」が、当該企業にとっての一般に公正妥当と認められる会計基準として位置付けられており、当該指針に従った会計処理を行うことが想定されます。

新リース会計基準が対象とする契約

📌 注意点:対象は旧基準と異なり「典型的なリース契約」だけではありません。
契約書に「リース」と書かれていなくても、 実質的にリースとみなされる契約 があれば対象となります。さらに、契約書がなくてもメールや仕様書ベースで発注しているケースでも取引の実態がリースであれば対象となりえます。

「当社にはリース契約がないから関係ない」と即断するのではなく、「リースに該当する契約や取引があるかもしれない」と一度立ち止まって見直してみましょう。

何が変わるのか?実務への影響は?

最大の変更点は、これまでオフバランスとしていたオペレーティング・リースが、資産および負債として計上されるようになることです。

この変更により、次の影響が想定されます:

  • 総資産・総負債が増加
  • 自己資本比率が低下する可能性
  • リース費用が利息+減価償却費に分かれて計上される
  • EBITDA(利息・税金・償却前利益)が形式的に増加

これらの変化は、経理処理にとどまらず、財務分析や経営判断、金融機関との対話にも波及するインパクトを持ちます。
一方で、“隠れた負債が見える化される”という点で、財務の透明性が高まることにもつながります。

適用時期について

新リース会計基準の適用開始は、2027年4月1日以後に開始する事業年度。多くの上場企業では、2028年3月期の第1四半期決算から影響を受けることになります。

実務的には早期準備が必要です。具体的な準備として:

  • 現在契約中の賃貸借契約・リース取引の棚卸し
  • オペレーティング・リースの有無と金額の把握
     →これらが新基準でも「リース」に該当するかどうかの検討
  • 実質的にリースに該当する契約及び取引(いわゆる隠れリース)の確認
     →経理部門だけでなく、実際に契約を管理している現場部門にも確認・照会を行う必要があります。
  • 会社の見解を監査法人と見解のすり合わせおよび合意形成
まとめと次回予告

2027年度から始まる新リース会計基準は、「借手が使用するすべてのリースを資産および負債として計上する」ことを原則とする大きな制度変更です。

財務指標への影響も決して小さくないため、経理部門が主導して社内の理解と準備を着実に進めることがカギとなります。
このシリーズでは、実務にすぐ役立つ視点で、1つずつポイントを解説していきます。

📌 次回予告:「リースの識別」

第2回のテーマは、「リースの識別」。何がリースに該当するのか?どんな契約が対象になるのか?
実務でつまずきやすいこのテーマについて、判断ステップごとに整理してご紹介します。

→第2回はこちら

以下の10回シリーズを予定しています。

第1回:2027年4月適用開始 新リース会計基準の実務インパクトとは?
👉 新基準導入の背景と、経理実務に与える影響の全体像を解説。

第2回:最初のステップ「リースの識別」
👉 2つのステップ、経理部門の対処すべき点など

第3回:いつまでが「リース期間」? 借手の「リース期間」の決定
👉 解約不能期間、延長オプションの評価、継続の意思確認など。

第4回:最初の仕訳が重要!「リース開始日の会計処理」
👉 使用権資産・リース負債の初回認識、リース料の算定と割引率の決定。

第5回:例外の取扱い:「短期リース」と「少額リース」
👉 実務で使える例外規定の適用条件と注意点を整理。

第6回:日々の処理はこうする!「リース期間中の会計処理」
👉 減価償却・利息費用、再測定や契約変更への対応も含めて実務目線で整理。

第7回:貸手の会計処理①:オペレーティング・リース編
👉 借手の会計処理との違いを理解しながら、現行モデルからの変化を把握。

第8回:貸手の会計処理②:ファイナンス・リース編
👉 貸手による売却・利息の配分、純投資・未経過利息の考え方など。

第9回:初年度がカギ!「適用初年度の実務と経過措置」
👉 遡及適用・簡便措置・契約の棚卸など、導入期に求められる対応を詳しく。

第10回:社内展開はどうする?「実務対応フローとチームづくり」
👉 社内体制の構築、現場との連携、監査法人とのすり合わせを含む推進プラン。

この記事は、公認会計士・石谷敦生が執筆しています。
内容はすべて筆者個人の見解に基づくものであり、いかなる団体や第三者の意見を代表するものではありません。

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